2009年10月22日木曜日

時の政権に翻弄される八ツ場ダム?







 一都5県の知事の現場視察も終わり静かになった頃合いを見て、一ヶ月ぶりに八ッ場ダム工事現場を訪れた。紅葉も真っ最中のためか平日でも観光客が多い。途中、柵で囲まれているダム本体工事予定地に工事事務所の人が立っている。また、誰か視察に来るのだろうか。

 まず「やんば館」に八ッ場ダムのパンフレットをもらいに行ったが、いつもあるパンフレットがない。置いてあるのは「川原湯温泉の吾妻渓谷散歩マップ」だけだ。案内の女性に「パンフレットはないのか」と聞くと、「そこにあるだけです」という。いつも八ッ場ダム工事事務所作成の資料があるはずなのだが・・。

 跡になって分かった。同じ日に衆院国土交通委員会の川内委員長が建設予定地を視察した際、公報センターの「やんば館」が「ダム建設を前提とした展示に問題がある」とクレームを付けたらしい。それで常置されていたパンフレットをしまい込んだらしい。

 今回の前原国交相の中止発言から始まり、時の政治に翻弄される八ッ場ダムだ。

 昭和27年に利根川改修改定計画の為に調査に着手されて以来、国(当時の建設省)、群馬県、長野原町そして1都4県の関連地方自治体でいろんな協議がされたようだ。当然のことながら国会議員、県知事、県会議員、町議会議員が建設推進で利権に群がって暗躍したのだろう。地元で推進協議会などが発足すると、会長は町議会議員やその地域の有力者が就き、国はその有力者と組んで強力に推し進めるのは常套手段だ。それが出来なければ今までの公共事業はまとまらない。

 今、週刊誌で利権に群がった人達の事が報道されている。真偽のほどは知らないが、地域や住民を代表して国や県と交渉する人達は、あらぬ嫌疑をかけられないためにも十分に注意すべきだったことは確かだ。「ダムはムダ」とよく言われるが、建設目的以外に無駄な費用を税金で賄っていることへの批判もある。

 川原畑側の移転先にいってみた。「工事関係者以外 立ち入り禁止」の看板の他に「地元車優先」の看板も立つ。中腹に比較的緩い斜面を削り取った造成地が現れた。神社は一番高い場所に移され、先祖のお墓も湖の見える場所に移設されている。

 移転先の造成は終わった箇所には家が新築されている。驚いたことにまだ全体の造成も終わっていない場所でも新築中の家もある。図面上は区画の線引きも出来ているのだろうが、造成工事が住民の要望とあわず、遅れている可能性もある。
 神社の下は、付け替え国道145号線の函渠工事が進んでいる。この付近の完成予想図を見ると、4車線になっている。「八ッ場ダムの経緯」をみると平成5年に、長野原町が国道145号付け替え道路の4車線化構想の受け入れを決定とある。町が希望したのか、国が気を利かせたのか知らないが、こんな山間で4車線なんて考えられないことだ。

 この神社の境内から川向こうの川原湯側の移転先(打越地域)を見ると、既に1期は分譲され家も建っているが、2,3期分は今も造成中だ。右方でも造成工事中で、ここはJR新川原湯温泉駅になる。温泉地もこの付近に移転するのだろう。川原湯温泉は、駅に近い温泉を売り物にしている。

 八ッ場ダムは、4600億円のうち、既に約70%にあたる3200億円を使っているとよくいわれる。予算ベースではそうだろうが、工事を見渡すと、とてもそうとは思えない。反対している民間団体の調査では、まだ土地の収用も出来ていないところがあるという。完成しているのはトンネル工事ばかりだ。

 地質だって良いとは言えない。盛り土整形されたところを見てもよくない。しかも湖面に突き出る法面勾配は30度を越える急斜面のようだ。指摘されている地滑りの危険は大きい。

 打越地域では沢が多いようだ。防災ダムが至る所に設置されている。上部からの落石、土石の流出を食い止めるのだろう。知事の現場視察の時に、工事事務所の人が「地質は硬い。金槌で叩くと火花が飛ぶ」と説明していたようだが、そんな問題ではない。川原湯温泉街を登っていくと、あらゆるところに落石防止ネットが張ってある。

 温泉街で落ち葉の掃除をしていた人は、「中止が前提では、話し合いしても仕方がありませんよ」という。「ここまでやったら、もう進めるしかないと思いますよ。私達は温泉で生きていくしかないのです」ともいう。

 「新しい温泉街出来ると環境はこんなによくなると言われ、期待していたが工事も長引くばかりで、温泉街はかえって寂れた」と失望を隠せない。確かにそうで、親水公園の未来図が画かれている。

 湖面2号橋工事現場付近で農作業していた人が、「政治に翻弄された50年だよ」と苦笑いする。

 前原さんは「マニフェストに書いてあるとおり、中止にかわりはない」と言うが、後処理をどうするのか。ダムは止めるが、JR,国道の付け替え工事は完成させるのか、温泉街の再構築はどうするか、地域住民の生活の補償をどうするか。

 民主党が政権に就いている間に、解決できるのか。これこそ問題だ。

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