2012年2月28日火曜日

円高、デフレ対策:日銀は責任を共有しているのか


各国中央銀行のバランスシート
週刊エコノミスト2012.2.28
リーマンショック後、欧米各国の
中央銀行は一斉に金融緩和し
たが、日銀は緩和が不十分で
これが円高を改善できない原因
だと在野のエコノミストが主張

今、日本経済が直面している円高、デフレ対策に日銀は責任を共有しているのだろうか。日銀と在野エコノミストで問題意識に差があるように思えるし、国会の予算委員会での日銀総裁の答弁は通り一遍でよくわからない。

先の「中長期的な物価安定の目途」については物議を醸している。デフレ脱却と物価安定へ向けた日本銀行の姿勢を明確化するために、当面1%を目途にすると発表したがインフレターゲットではないらしい。インフレターゲットにすると責任が生じるので回避してのことらしい。

そんな時、23日の衆院予算員会で自民党の中川さんが日銀を追求していた。久しぶりに興味を持って聞いたが、内容を確かめようと翌日の新聞を見たが、国債などの金利が1%上昇した場合の金融機関の損失見込みが6.3兆円になることは報じていたが、その他の日銀とのやり取りは載っていなかった。

記憶を頼って思い出すと、ボードを使って失われた20年の日銀の政策の是非、金融緩和の不十分さ、議事録を見ても誰がどう発言していたのかわからない、責任がどうなっているのか、さらに議事録などの公開が遅いなどの点について質問していたと思う。

私も以前「日銀はもっと国会で政策論争せよ」という内容の記事を書いていたので中川さんの質問には同感だ。

特に今、日銀と在野のエコノミストの間で考えが食い違っている問題に、欧米の中央銀行とのバランスシートを比較すると日銀の金融緩和は不十分で、円高、デフレの要因にもなっているという。

以前、国会の予算委員会で同じような質問を受けた時、山口副総裁が日本と米国の対GDP比でマネタリーベースを比較して、確か日本は15%、米国は12%で決して不十分とは言えないと日銀の従来からの考え方を繰り返し答弁していたのを覚えている。しかし、在野のエコノミストは違うという。

週刊エコノミスト(2012.2.28)のFRASHに「各国中銀のバランスシート」が載っていた。リーマンショック後、欧米の中央銀行は一気に多量の資金を市場に投入する金融緩和を実施したが、日銀は仕方なく金融緩和を実施したような緩やかな投入だ。高橋洋一さんなど在野の経済学者は、このようなデータから金融緩和が不十分と主張している。

日米欧マネー供給量 マネタリーベース
対GDP比 白川総裁の日本記者クラブ
講演2012.2.17より
日銀は先進国でも最高水準の緩和を
しており、緩和が不十分という意見に
「誤解だ」と反論する
一方、日銀は「それは誤解だ」という。2012年2月17日に日本記者クラブでの講演の「デフレ脱却へ向けた日本銀行の取り組み」の中で示した日米欧のマネタリーベースの対名目GDP比をみると日本の比率は主要国で最も高い水準にあり、従来から日銀が言っているように対GDP比では決して不足しているようには思えない。データの取り方により、どうしてこうも違うのか。渋々金融緩和を進めているように見える日銀の都合のいいデータなのか。

白川総裁は講演の中で、金利が極めて低い水準まで低下すると「流動性のわな」と呼ばれる状態になり、金融の量的な指標では金融の緩和度を測ることができなくなるというのだ。欧米ではリーマンショック後、金融市場の機能が著しく毀損知った目に、安定回復にバランスシートの大幅な拡大が不可欠だったが、我が国は金融市場の機能低下は限定的で、欧米ほど極端な量的拡大を行わなくても、欧米以上に緩和的な金融環境が実現できたというのだ(同講演より)。

記者クラブで説明するより、もっと国会で議論すべきではないのか。

従って、デフレの要因も日銀はカネが不足しているのではなく、需給バランスが崩れ需要不足になっているという。その対策は日本経済の成長、成長期待を強化すれば実体経済が改善し、物価も上昇するとみている。

経済・物価情勢の先行きに関しては、消費者物価指数も前年比ゼロ%近辺で脱却の歩みは進んでいるというが、日銀が言う中長期的な物価安定の目途とした1%にはまだ距離があるというのだ(同講演より)。その1%も低いという批判があったためか上げることもあるという。

中川さんが指摘していた、議事録などの公表は確かに遅れている。議事録要旨などは2か月の遅れだ。

日銀のHPから政策委員会金融政策決定会合議事要旨(2012.1.23~24分)を開いてみた。どの委員が何って言ったのかは不明だ。「〇〇について、委員は・・・・・」という形式で、責任追及を回避するためとしか思えない議事録だ。中川さんは責任を強調していた。

出席委員で採決が行われるようだ。委員は当面の金融市場調整方針について「無担保コールレートを0~0.1%程度で推移するよう促す」という現状維持との考え方を共有し、白川総裁から見解を取りまとめる形で議案が提出され採決された。

無担保コールレートは公定歩合の代わりに政策金利となり、それが0~0.1%で低く抑えて景気を刺激することになった。採決の結果は賛成、反対で表記され委員全員の責任なのだ。失敗すれば責任を取る形式にはなっていない。

失敗すれば内閣は責任を取ることになるが、日銀や財務省は何ら責任を取ることはない。高給取りでおいしい仕事だ。

内閣府からの出席者が発言していた。政府と日本銀行は一体となって速やかに安定的な物価上昇を実現することをめざし取り組んでいくことが極めて重要だとし、日銀には、政府のデフレ脱却と経済活性化に向けた取り組みと歩調を合わせ、金融政策面からの最大限の努力をお願いしたいという。具体的には何をしろと言っているのか。

今、巷間ではこの程度の金融緩和では1~2%の物価上昇は難しい。50~100兆円ぐらいの緩和が必要だという。

経済政策は実験ができないところに難しさがある。政治は実験はできるが失敗すると今の民主党政権のようになる。

経済指標の小さなズレから経済の現状を判断し、「ああだこうだ」というのも仕事だろうが、「現状維持」「様子見」では何の変化もない。ただ日銀は景気の現状について、海外経済の減速や円高で横ばい圏内の動きとなっているが、今後は海外経済の成長率が再び高まることや震災復興関連需要で緩やかな回復経路に服していくとの見方を委員たちは共有しているようだ。

だからと言って様子見では話にならない。

在野エコノミストの意見にも耳を傾け、しっかり議論し、委員一人一人が責任を取る仕事で国民に応えるべきだ。

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