2012年8月23日木曜日

原発ゼロ:その理想と現実

22日の再稼働に反対する市民
団体との面会での野田総理
NHK おはよう日本
2012.8.22

「原発ゼロ」は理想なのか、それとも現実に可能なのか。将来のエネルギー戦略は国民生活、産業構造に大きく影響する政策課題であるが、その中でも原発政策は脱原発か否かで国論が分かれる様相を呈してきた。政府は大飯原発再稼働にあたっては、国民の生活などへの影響を考慮し高度の政治判断をした。

しかし、高まる脱原発の動きに、政府は2030年までに原発比率を「0%」「15%」「20~25%」の3案について国民の意見を聞く試みを実施した。

新聞報道によると、討論型世論調査では電話調査では「0%」が32.6%だったのが、討論後は46.7%になったという。討論前に原発ゼロと考えている人が33%いるということは通常考えられることであるが、討論後に47%近くになったことに驚く。そのほかに「15%」が15.4%、「20~25%」が13%だったという。

討論型世論調査での原発比率
NHK おはよう日本
2012.8.23
どんな情報を得て考えが変わったのか。そこが問題だ。原発依存を考える時に正確で、十分な情報を得ていたかどうかが大事なのだ。これはこれから総選挙などで脱原発が争点になり、YESかNOの候補者を選ぶ時も同様だ。

また、パブリックコメント(意見公募)も行われた。

途中集計らしいが、それによると、「即刻原発ゼロ」は81%、「段階的になくす」が8.6%で合計89.6%の人が原発依存比ゼロを支持している。

これらから判断すると、原発依存ゼロを目指さなければならないが、政府は原発政策をどう政治判断するのだろうか。

代替エネルギーである再生可能エネルギーである太陽光発電、風力発電などをどう考えるのか。天然ガス、石油など海外に頼らなければならない火力発電への不確定要素、それぞれの発電コストはどうなるのか。国内産業に及ぼす影響はどうか。原発を維持すると考えるとその安全性、放射性廃棄物の処理、使用済み核燃料の処理など解決のめどが立っていない問題にどう対応するのか。

国民の生活、産業に及ぼす影響としては発電コストがある。

エネルギー白書2010によると、1kWhあたり太陽光発電49円、地熱8~22円、風力10~14円、水力8~13円、火力7~8円、原子力5~6円だ。しかし原子力について政策的に非常に低く設定されていたが見直しの結果9~10円という数値を見たことがある。

一方、国家戦略室の試算では天然ガス火力10.7円、石炭火力9.5円、原子力9円でほぼ横並びということになる。燃料費の占める割合は天然ガス火力で約90%、石炭火力で約70%であるのに原子力は約10%で、エネルギー安全保障を考えると原子力は限りなく国産の電源になることは確かだ。

風力発電、太陽光発電が脚光を浴びているが、単独での電源としては頼りなく、火力発電のバックアップがあってはじめて成り立つ電源だ。

かといって、原子力発電の安全性には大きな疑問が残る。今回の福島第一原発の事故は地震、津波に起因するとはいえ東電経営陣の安全意識の欠陥によるところが大きい。一度事故が起きると取り返しのつかない事態になることは今回の事故が証明し、未だ解決にも至っていない。

おまけに事故調査で提出が求められた会議録画ビデオも手が加えられた一部の画像で原因究明に役立つ内容ではない。

原子力三原則は「公開」「民主」「自主」であるが、情報公開を渋ることは安全を蔑にすることはあってはならないことであり原発に対する大きな弱点だ。

もうひとつ、原発の安全性で問題になっているのが、施設の直下に活断層と思われる断層があることだ。原発の建設ラッシュの時は「原発ありき」でその断層の評価も捻じ曲げられていた傾向にある。3.11以降、活断層評価も厳しくなって再調査が原子力安全・保安院から指示されている。万一活断層ともなれば当然運転停止、廃炉になる。

原発に対する国民の目は厳しくなっていることはわかる。政府も脱原発に対する検討を始めた。

脱原発は理想であるが、現実論としてゼロが妥当かどうか、国民が判断できる資料の提出が要求される。

ところで、英・エコノミスト誌が「2050年の世界」で40年後の世界のトレンドを予測しているが、その中で原発がどう評価されているか調べてみた。
「知識と科学」の項で、今後40年でエネルギー価格は安くなるだろうと予測している。

原発ではウラン燃料の水冷式から脱却し、安全性の高いトリウム溶融塩炉に移行すればエネルギー価格の低下に貢献するかもしれないという。今考えられている再生可能エネルギーについては金食い虫になるだろうから熱心に補助金をつぎ込んでいることに孫たちの世代はびっくりするだろうとも言うが、脱原発の動きに関しては何ら記述がない。

そういう意味では不完全な将来予測である。

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