2014年9月11日木曜日

今の物価上昇:日銀副総裁曰く「単に円安によるものではなく、量的・質的金融緩和の効果」と

日銀・岩田副総裁が「今の物価上昇は単に円安によってもたらされたものではない」と金沢市で開催された経済懇談会で言及した。円安による上昇であればその効果が剥落すれば物価上昇のペースは下がるはずだが、円安と物価上昇の関係は必ずしもない。

日銀 HPより
寧ろ、日銀がやっている「量的・質的金融緩和」が物価を押し上げているというのだ(最近の金融経済情勢と金融政策運営――石川県金融経済懇談会における挨拶 日銀副総裁岩田規久男 2014.9.10)。

物価動向についても、需給ギャップは穏やかに改善し、予想物価上昇率も全体に上昇しているとみられ日銀が目指す「物価安定目標」である2%の実現に向けての道筋を順調にたどっていると見ている(同上)。

多くの民間エコノミストとは違って2%達成に自信を覗かせているが、「量的・質的金融緩和」も所期の効果を発揮し、金融政策の効果は今後更に強まっていく。そのためには日銀の政策の趣旨について国民に理解を深めてもらうことが重要とも言う。

岩田副総裁は、2年で2%が達成出来なければ「辞任する」と豪語していた人だ。経済人に向かって「もっとがんばれ」といっているようなものだ。

このレポートでは、今の日本経済を日銀がどう見ているかがわかる。

基調的には「穏やかな回復」を続け、景気の前向きな循環メカニズムはしっかり維持されているというのだ。

家計部門では、失業率3.8%、有効求人倍率1.10倍で雇用の不足感も強まっている。常用労働者数は前年比で1%台の伸び率で増加し、雇用所得も2%台ののびだ。個人消費も駆け込み需要の影響も徐々に和らぎ、前向きな循環メカニズムが維持されているとみるが、消費税引き上げに伴う実質所得のマイナスは引き続き注意する必要があるという。

企業部門では、輸出が弱めではあるが、先行きは穏やかに増加するとみており、企業収益の改善、企業マインドも全体的に良好で設備投資も緩やかに回復、こちらも前向きな循環メカニズムが維持されているという。

全ては前向きな循環メカニズムが維持されていることを強調している。

巷間言われている「賃金が物価上昇に追いついていかず、実質的な賃金水準は下がっている」という悲観的見方には、岩田副総裁は「物事には順序があるので、もう少し辛抱強く政策効果を見守って欲しい」という。


企業の立場で言うと、雇用の増加は非正規雇用から始まり、賃金の上昇はボーナスや所定外給与の増加の形を取る。物価動向を勘案した実質賃金は、最近まで下落したが、7月には上昇に転じた。先行きの景気動向、自社の業績に見通しが付けば安定的な賃金の上昇も実現していくと岩田さんは見ている。

今の日本の経済状況を「経済の悪循環」とみている識者も多いが、日銀は一貫して「前向きの循環メカニズム」を維持しているという。物価上昇2%へ向け量的・質的金融緩和をやっている以上は「期待感」をあおりたいのだろうが、冷静な見方も必要だ。

失敗すれば、その反動が大きくなる。

このレポートでは、「円安が物価上昇を押し上げ悪循環ではないか」とか、「実質賃金が物価上昇に追い付いていない」などの否定的見方にも丁寧に答えていることは評価したい。

内容の善し悪しは別として、一読すべきレポートである。


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2014.9.12掲載
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