2014年9月23日火曜日

神の見えざる手:109円は良い円安なのか、悪い円安なのか

22日は1ドル108円90銭、急速に進む円安は我が国にとって良い円安か、悪い円安なのか。「神の見えざる手」は働いているのか。G20共同声明では「為替相場に関して過度の変動を避ける約束を遵守せよ」というだけで何やら容認しているようにも思える。

新聞報道によると、黒田総裁は記者に今の円安に関して「個人的には問題ないと思う」と発言しているようだ。

今の為替相場は世界の政治、経済情勢により市場がリスク・オン、リスク・オフを繰り返し為替も市場の気まぐれで変動する。経済は「神の見えざる手」で自律的に調整すると言うが、今は「最大の利益を確保するにはどうするか」、「損失を最低限にするにはどうするか」で動く。

そんな為替の変動で国の経済力を評価されるのも困ったものだ。本当に国力を評価する公平性を保っているのか。

以前は、通貨高を阻止するために為替介入、たとえば「円売り介入」で円高を回避しようとしたこともある。2004年、イラク情勢もあって投資ファンドが円買いに出て117円だった相場が105円まで跳ね上がったことがある。100円を切ろうとしたので日銀は円売り介入に出たのだ。

単独介入もあったがあまり効果は無く、大体が協調介入で急激な乱高下での世界経済の混乱を回避し適正レートに安定させたものだ。

それが段々為替介入が批判されるようになり市場に任せたために、1990年代には円高傾向になり1ドル100円を切り1995年には79円前半、2000年代後半に100円になったが2008年には80円、2011年には76円台前半にまでなり円高が定着した。

円高に泣かされた企業は、下請け企業も伴って海外へ生産拠点を移した。仕事を失った若者は低賃金、非正規労働に甘んじることになる。消費は落ち込み成長率はマイナスで長いデフレから脱却出来ず民主党政権は苦慮した。

市場に出回る円の通貨量が少ないために円高なのだから市場に円の通貨量を増やせというマネタリーベースの増加を野党だった自民党や民間エコノミストが主張、安倍総裁はインフレターゲット、強力な金融緩和を訴え選挙戦に臨んだ。

「口先介入」だけで期待感から市場は円高から円安に動き、黒田総裁の「2年で2%の物価目標」、「2年で270兆円の異次元の金融緩和」で円は100円を超え、107円そして今109円に迫る。

日銀は量的緩和を継続するも、一方でFRBは今秋にも量的緩和を終了し、金融正常化に向けた利上げもテーマに上ってきた。今後はドル高、円安基調が続くのだ。

あれだけ望んでいた円安も、円安→物価上昇から「良い円安」か「悪い円安」かが議論になってきた。

安倍政権の2年で、円はドルに対して20%以上下落し、円安が輸入品などの高騰で食料品などの物価上昇を呼び、「悪い円安」で日本の国力は地に落ちたと言う(週刊ポスト2014.10.3)。

それによると、よく言われている燃料費、コーヒー、衣料品など値上げ、可処分所得の3%負担増、貿易収支も赤字で経常収支は赤字転落直前だ。実質賃金も13ヶ月連続でマイナス、ドル建てGDPは世界第2位から3位に転落したが規模は中国の半分なのだ。通貨の実力を示す購買力平価を用いた換算では2002年で中国は日本の3倍、それが表面化しなかったのは円高のおかげだったというのだ(同上)。

驚く結果だ。

日銀の岩田副総裁は「今の物価上昇は、単に円安のためではなく、日銀のやっている量的・質的金融緩和の効果だ」という意味のことを金沢市での公演で言っている。日銀の報告でも「前向きな循環メカニズム」をたどっているとも言う。

量的緩和→円安→物価上昇→企業の生産活動活発化→賃上げ→消費拡大の好ましい経済循環に乗っているとでも言うのだろうか。

これだと「良い円安」なのだが、大企業の一部には恩恵があっても中小企業は泣いているらしい。新聞報道で日本商工会議所の会頭が「105~107円が最適」と言っていた。

オーストラリア・ケアンズで開かれたG20でもアメリカは日本の経済成長の弱さに苦言を呈していた。

日本は今、デフレ脱却に向けての経済成長と財政再建の二兎を日本は追っている。

政府、日銀は2%成長を目論んでいるが大方の民間エコノミストは否定的だ。財務省は補正予算を組んで対応すると言うし、日銀は「何でもやる」となりふり構わない。財政再建も海外から強く要求されているが、歳出削減どころか予算枠は101兆円を超え、今のところ消費税増税しか手はない。

円安、物価上昇の悪循環では経済成長も覚束ない。更に10%への増税ではどうなるのか。


円安は日本の望むところと関係なしに進むのか。

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