2015年8月2日日曜日

憲法解釈者の姿勢:時代とともに変わる憲法規範を現実の出来事に当てはめる責任を持て

憲法解釈者の姿勢は時代とともに変わる憲法規範をきちんと現実の出来事に当てはめることと憲法学者である京大・大石教授は言う。私立大の多くの憲法学者が「違憲」を断じている今回の安保関連法案(平和安全法制)を東大や京大の憲法学者がどう考えているのか疑問に思っていたが、政府寄り(?)のスタンスを取る読売新聞(2015.8.2)が京大・大石教授とのインタビュー記事「安全保障法制 語る 「憲法解釈 変更あり得る」」を掲載した。

安保関連法案の国会審議で中身の議論が深まらない中で、野党は法案の印象ばかり批判し、「戦争法案」というネーミングはデマゴギーで国会議員が使う言葉ではないし、世論調査を元に「国民の多くは憲法違反だと考えている」と訴えるが国会議員は自らの判断を放棄しているようなものだという(読売新聞2015.8.2)。

野党が「戦争法案」と言ったから国会前集会で「戦争させるな」というプラカードになったかどうかは知らないがデモ参加者には年配者、子連れ夫婦を問わず「戦場に子どもを送るな」などの訴えが多い。そして戦争経験者である高齢者は一様に戦争反対なのだ。

この集団的自衛権行使が限定的であっても安保関連法案が「戦争になる危険」に一歩近づいていることは確かだ。今は武力行使ではなく外交で懸念事項を解決する方向だという専門家もいるが相手国次第では外交もうまく行かない。

世論調査などで「国民の多くは憲法違反と考えている」とは、国民の民意に言及したものであるが国会議員自ら判断すべきだという指摘には同感だ。

60%の国民が反対している法案が委員会で強行採決、賛成多数で衆院通過とは自公議員が民意をどう考えているのか。民意とは関係なく党議拘束(?)で賛成したのか。衆院特別委員会での強行採決でプラカードを掲げて委員長席に駆け寄る野党委員に較べ茫然と起立している自公議員の無気力さが印象に残った。

理解が進まない理由に10本の改正法案などを1本にまとめての一括提案であることを挙げているが私もブログで個々の法案で審議したらどうかと提案したことがあるが大石教授の意見に同感だ。1本1本を丁寧に審議すれば理解も進むだろうし、新たな疑問も出てくるだろう。

ところが国会審議で野党議員が質問したところ安倍総理は「分離すれば関連性を説明するのが難しい」という意味の発言をして拒否したのだ。何やら説明しやすい事項に質問を集中させ知って欲しくない事項を隠す手段に出たのではないかと疑う。
憲法9条と安保関連法案の関連では、憲法は伝統的に武力行使の放棄を定めていることは疑いのないことだが国際情勢は動いているのだから解釈変更の余地は有り憲法規範と整合性を取っていくべきだという(同上)。

安倍総理がホルムズ海峡の掃海に御執心だったことから党首討論で岡田さんが「ホルムズ海峡で何か変わったことが起きているのか」と安倍総理に質問したが安倍総理はまともには答えなかった。

そして今、中国、北朝鮮などを想定国にしている。尖閣諸島の激しさを増す領海侵犯、北朝鮮の核開発問題、なかなか進まない拉致被害者問題など日本一国では対応しかねる問題に米国との同盟強化で抑止力を上げようとする考えには理解も出来る。

外交や軍事の専門家は国際情勢の変化を例示し安保関連法案の必要性を説く。地方の公聴会でも中国に近い沖縄県内では安保関連法案に賛成する意見が多い。国土防衛を考えるとその緊迫感は分かる。

一方で、今回の安保関連法案に反対の立場を取っている人には安倍政権の政治手法に反対している人も多いのではないか。

国民投票法を成立させた実績はあったが、憲法改正のハードルが高いとみると「今回が限界」と憲法の解釈改憲に舵切りした。今回の法案は、特に大々的に選挙公約で掲げた政策ではなくアベノミクスに隠れて公約に添えられた程度の政策課題であったが衆院で多数の議席を維持することが出来、国会審議の前に閣議決定、アメリカとの約束そして国会審議入りと強硬手段に出た。

野党は憲法解釈変更は「立憲主義に反する」と政府を追及する。憲法学者もこの点も「違憲」の理由にあげる。

大石教授は「そもそも憲法の役割は正しい形で政治家に権力を与えること」だといい、「権力を抑制しなければならない」という主張は「政治家には存在価値がないと言っているようなものだ」と酷評する。国民が選挙で投票し、議院内閣制を確立するものだから立憲主義の議論は不毛という(同上)。



最後に大石教授は「憲法学者は政権へのスタンスでものを言ってはいけない」とも言う。時代とともに変わる規範をきちんと現実の出来事に当てはめることが責任ある解釈者の姿勢だという(同上)。

内閣、法制局もそういう役割を担っているし、最高裁も起きた出来事に如何に打倒は解決策を見いだすかに腐心しているという(同上)。

憲法学者にもそういう姿勢が求められるのではないかという(同上)。

憲法学者が国会で参考人として呼ばれるときも各党の推薦によるが、与党推薦の憲法学者が「違憲」と言ったのだから反響は大きかった。今は政権寄りとみられていた憲法学者も「違憲」発言をしている。

安倍総理は進まない国民の理解に対して「丁寧な説明」を強調するが、時代の移り変わりとともに現実の出来事に対してしっかり説明責任を果たし憲法との整合性を図らなければ国民の理解は得られない。

大石教授が今回の安保関連法案に「合憲派か違憲派か」、「賛成か反対か」もはっきりしないが、示唆に富むインタビュー記事だった。この安保関連法案も国会審議では成立するだろうが、国民一人一人がしっかり考え「賛成か反対か」の態度を示すのは来年の参院選だ。


憲法学者も合憲、違憲の判断ばかりでなく現実の問題をどう解決していくか、処方を出すのも責任ではないか。


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