2015年11月15日日曜日

製造業の付加価値の50%を稼ぎ出す中小企業の経営環境はよくなっているのか

東京・大田区役所3階の「テクノコモス」
大田区にある中小企業が作り出す約840種の製品が
ワイヤーで天井からつるされている
小さなものではネジから大きなものではロケットの先端部
など見ていて圧倒されそうだ。
日本経済の基盤を形成し、全企業数の99%超、従業員数の70%で製造業の付加価値の50%を稼ぎ出す中小企業の経営環境はよくなっているのか。

リーマンショック後のテレビが伝える中小企業の惨状はひどいものがあった。当然景気が悪いことを伝えるためのテレビ局の思いもあっただろうが、ほとんどの機械が止まっている薄暗い町工場の中で経営者1人が1枚のファックスを掲げ、今日はこの仕様で1個の生産だ。断ると注文が来なくなるから損してでも作らざるを得ないという。

そのうちに景気も良くなったのだろう、仕事は増えてきているが単価は以前のままで儲けはない厳しい状況だとも言う。単価は落とされたまま数量が増えてきたのだ。仕事があること自体を喜ばなければという訳か。

円高で輸出産業は現地生産のため海外へ出て行った。当然ながら部品供給会社も出て行くことになる。日本で生産して輸出では話にならないのだ。ところが今、円安効果で国内回帰の動きもあるが一旦出て行った生産設備を取り戻すことは無理のようだ。国内の設備投資は低調でも海外での設備投資は好調のようだ。

安倍政権は安倍ノミクスの成果を出そうと法人税下げの代わりに経済界に賃上げを要求、大企業は応じる姿勢を示すが中小企業は素直には応じられない状況もあるようだ。

今、中小企業はどうなっているのか。

商工中金の「中小企業の動向(2015年秋号)」によると、10月の中小企業の景況判断指数は48.7で2か月ぶりに低下したが製造業は横ばいでも非製造業は低下した。11月の予測は木材・木製品、輸送機械、建設では50を超えると見ている。木製品は需要増から販売価格が上がっているが、鉄鋼は価格が大幅下落、トラック輸送は運転手不足で売り上げが伸びないようだ。

売上高も9月は前年同月比で+0.6%だったが10月は減少と見ている。販売価格も8月以降、3か月連続で「下落」という。

採算面では10月は悪化が拡大した。資金繰りは悪化幅が縮小に向かっている。生産設備では10月は過剰感が拡大だ。雇用も不足感が緩和されているが、飲食店、宿泊、情報通信、トラック輸送、建設では不足している。景気が良くなった半面厳しい労働環境の職場は敬遠されているのか。

日本商工会議所の「中小企業の現状について」(2014年9月29日)の参考資料を開いてみた。

中小企業を取り巻く環境では、仕入れ、電力料金などのコスト増が収益を圧迫、人手不足の影響が広がるほかに人材確保のための賃上げの負担増も加わり景況感は業種によってはまだら模様だという。

賃上げは54.6%で実施し半数を超えたが、まだ未定が28%ある。人材定着やモチベーション向上のために賃上げは必要という。

消費税引き上げ分は約9割が転嫁できているというが、売上高が低いほど転嫁できていないらしい。売上高1千万円以下では転嫁できているのは20%という。

コスト増の販売価格への転嫁状況は、人件費は94.2%、燃料費は93.9%、電力料金は92.2%の企業が全く転嫁できていないという。

政府は賃上げを経済界に要求しているが、販売価格への転嫁が無理ということはそのまま収益に影響することから考えて、日本商工会議所会頭が「経営者の判断次第」と言っていた理由もわかる。

原材料の仕入れ価格については84%の企業が販売価格への転嫁ができていない厳しい状況にあるようだ。中小企業は円安効果も利益率は小幅な改善で、むしろ多くの中小企業はマイナス要因と見ている。

労働分配率、労働生産性も、資本金1億円未満と以上の企業では分配率に大きな開きがあるし、労働生産性では約2倍の格差がある。

結構厳し経営環境がわかったが、更に大企業の「値下げ」交渉にも応じなければならないのだ。

新聞報道によると、トヨタが下請け部品メーカーに対して半年に一度の値下げ交渉を始めたという。1~1.5%の値下げを目指しているらしい。トヨタに言わせれば「カイゼン」で無駄を省けばコストは下がるというのだ。

今まで値下げを見送っていた分、下請けは利益を上積でき賃上げで家計は潤っていたとでも言うのか。今はあまり聞かなくなったが、トヨタの「かんばん方式」は無駄を省く生産方式として国内は勿論海外からも注目されたが、言い換えれば下請泣かせの生産方式で評価はまちまちだ。在庫は下請けに持たせるが、集中豪雨などで道路が寸断され交通が乱れると部品の供給ができず生産ラインを止めなければならない事態にも至った例がある。「それ見たことか」と思った下請けは多かったのではないか。

トヨタの場合は自動車産業ですそ野が広い、1次仕入れ先450社、2次が10,000社、3次を入れると数万社に上るという。その影響は大きい。

トヨタが数兆円の最高営業利益を出したというニュースが流れると、下請けがいじめられた結果だと思いたくなる。

私の住んでいる大田区は中小企業の集まった地域だ。「下町ロケット」、冬の競技に使うソリ(正式な名前を忘れた)の開発でも有名だ。毎年中小企業が集まった「おおた工業フェスチバル」も開催されている。

チョッと古いが、平成20年の資料によると、工場数4362社(ピーク時は9190社)、従業員数35741人(ピークは昭和60年)、製品出荷額は7796億円という。

大田区役所3階のホールに上がると大田区の企業が作り出している小さなネジからヘラで作り出す大きなロケットの先端部など約840製品が天井からワイヤーでつるされている。

また、一度「おおた工業フェステイバル」を取材し、オーマイニュース(今は廃刊)に「街工場の技術を支える若者たちのネットワーク」という記事を投稿したことがある。若い技術者たちが定期的に集まって、大学の先生も加えて新しい課題に挑戦しているのだ。

中小企業の活性化なくして日本経済の再生などあり得ない。安倍政権も大企業優先の政策ではなく中小企業を育てる政策に力を入れるべきだ。


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